店に戻った大将が「今見送ったお客さん、店に着たの初めてだよな?」とみよしに言った。
「そうね、なんで?」
「俺の事あきらくんって呼んだんだよ…」
「そうなの?」
「うちにきて俺の事あきらくんなんて言うお客さんいないだろ…」
大将はビッケのように鼻の下を人差し指で『テレテレテン』と音がするかのようにこすっていた。
それを見ていたみよしが「またやってるよ?それ!」と言った。
みよしがふとカウンター奥に飾ってある額縁をみて「あっ!これじゃない?」と指さした。
みよしが指さしていたのはカウンター奥に飾ってある「調理師免許証」だった。
そこには「吉岡陽」と大将のフルネームが記してあった。
「う~ん…」陽はみよしの指摘に半信半疑だった。
「大将、あたし大トロもらおうってかな!」いずみの注文が入った。
「へい!了解です!」
陽はいずみから「大トロ」の注文が入ったので「大トロ」を握りはじめた。
陽は「陽」っ書いてあきらって読むのなかなか難しいんじゃないかな…と考えながら握った大トロはなんとシャリが大トロでサンドされていた。
「へい!大トロお待ちです」
目の前の下駄におかれた「大トロ」見ていずみはしばらく固まってしまった。
そして自分が酔っているのかを確かめるように何度も目をこすっては大トロでシャリがサンドされている目の前の寿司を見ていた。
「大将これ大トロだよね?」
「へい!秋間寿司自慢の大トロでーす!」と言って自分で握っておきながら、その大トロを見た瞬間、大将の両目は目玉の親父くらいでかくなったいた。
「ありゃっ!これ俺が握ったのか…」
「こ・こ・これは大トロサンドです。今度新しいメニューに加えようかと思いまして」と適当に答えてしまった。
「サービスですのでぜひ食べてみてください」
「おぉ!なるほどね!わたし酒飲みすぎて目がおかしくなってるんかと思ったよ」といずみが言った。
大トロサンドを目の前にしたいずみは「写真撮るね」と言ってスマホで写真を撮ってから、大トロサンドをの両面に醤油をつけ一口で口の中に放り込んだ。
「おぉ!全部とける!美味いよ大将!」いずみはシャリとネタのバランスを無視したこの大胆な大トロに思わずうなってしまった。後に秋間寿司の看板商品となる「大トロサンド」はこの時に産まれた偶然の産物だった。
慎也と久美子は秋間寿司から少し離れたところで立ち止まって話をしていた。
「順子さんの住所どこですか?てかなんで携帯電話持ってんすか?」
「なんかバックに入ってた」
「ホルモン屋で探した時なかったのに?」
「だね、よく探せばよかったね」
「あっ!てか俺さっき久美子さんの携帯で秋間寿司探してましたよね」
「そうだね」
「なんも気にしなかった…」
「どうしようもないね、あんたは!」
慎也は思った。「確かにそうかもしれないけど元はと言えばあんたがどうしようもないんでしょうが!」もちろんそんな事言えないので言わなかった。
「でもあいつ(昌也)なんで連絡よこさねぇんだろ?」
慎也はジーンズの後ろポケットからiPhoneを取り出した。
「あっ…そうか…」慎也のiPhoneはバッテリー切れだった。
「どうしようもないね、あんたは!だからあたいの携帯で秋間寿司探したんでしょうが!」
「はい、その通りでごさいす…俺ってアホだな…」慎也は心底そう思った。
「俺、家の鍵昌也に渡してましたよね?」
「ホルモン食べた後にね」
「って事は今頃、久美子さんの荷物持って厚木をウロウロしてる可能性ありまね」
「あっ!そうだよ!どうすんだよ!」
慎也はピップモンキーに付いているキーリングを確認した。
「あっ…その心配はありませんね」
「どうしてだよ?」
「俺が昌也に渡した鍵、車の鍵でした」
「ブルマの鍵?」
「なんすかそりゃ!車の鍵ですよ!」
「家の鍵じゃなく?」
「はい」
「あんたほんとにアホだねぇ!」久美子は違う意味で関心している。
「はい、なんとでもどうぞ!わたくしすべてを受け入れる覚悟でございます」
「何言ってってんだか…」
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