第十五話 シロコロ行くんだ…

その頃、彩(順子の母)は…

彩が出かけるのは嘘だった。今日の午後は家に一人きり、誰にも邪魔されずU‐NEXTで映画を見るのを一週間前から楽しみにしていた。

今日、観る映画はロバート・デ・二―ロ主演「ミッドナイトラン」だった。

彩はこの映画が大好きだった。何度観ても同じシーンで泣くのだが、毎回感情移入してしまい泣いてしまうのでいつもティッシュを用意していた。(すごくいい映画です。ネタバレしたくないのでどうぞ御覧ください。個人的にはデ・二―ロの中では一番ですね 著者談)

スマホの電源はオフにし、家の電話は着信音が鳴らないように音量を最低に設定、ヘッドフォン着用で、家の呼び鈴が鳴っても聞こえないようにしていた。外部からの音、全てをシャットアウトする徹底ぶりだった。

その頃、慎也の部屋では

慎也は久美子に一刻も早くこの部屋から出て行ってもらいたかったので、もう一度お嫁さんに電話をしてもらえないか、かけあってみることにした。

「連絡着ませんね…」

「だな」

「もう一度お嫁さんに電話して聞いてみてくださいよ!」

「なんか忙しいかなんかで出かけたらしいよ」

「だったらお嫁さんの携帯電話に電話してみてはどうでしょうか?」

久美子はニヤッと笑い、携帯電話のストラップを人差し指にかけ携帯電話をくるくる回しながら言った。

「とっくの昔に削除した」

慎也は目をつぶりテーブルに肘をついて頭をかきだした。

二人のやり取りを見ていた昌也が口を開いた。

「因みになんでお嫁さんと仲良くないんですか?」

「あたいはね、ハートチップルが好きなんだよ」

「はい?」昌也は首を傾げた。慎也は右眉毛だけ器用に吊り上げ二人の話を聞いていた。

「ハートチップルだよ」

「お菓子のですか?」

「そう…あいつはあたいが楽しみにしてたハートチップルを勝手に食いやがったんだ」

「ハートチップル?」

「ハートチップル」

「それだけですか?」

「それだけってねぇ昌也君!こっちじゃ(神奈川)当たり前に買えるかもしれないけど宮城だとなかなか売ってないんだよ」

「そうなんですか?」

「あたい、初めて食べたハートチップルの美味しさに感動しちやってさぁ!息子らが帰省する時には毎回買ってきてもらってたんだよ」

「へぇそうなんすね」

「それなのにあの嫁はね!帰省した時に自分らでお土産として買ってきたくせにあたいが楽しみにしてた最後の一袋を食いやがったんだよ」

「へっ?」昌也は

「へっ?てなんだい?食べ物の恨みは恐ろしいんだよ!」

慎也は横で聞いていて頷いた。

「ハートチップルか…それじゃ仕方がないな…」

慎也もハートチップルが大好きだった。

ハートチップルでご飯を2杯食べた事があるくらい好きだったのでその気持ちは少しわかる気がした。ここだけは久美子と同じ気持ちになれた慎也だった。ちなみに慎也は最近までハートチップルではなくハートチップスだと思っていた。

昭夫トイレから帰ってくる

「トイレ長かったすね?」

「なんか腹痛くなっちゃってよ」

「 昭夫さんのスマホ、ブルブルしてましたよ」

「おぉ!留守電入ってんな…」

昭夫はすぐに留守電を確認した。

「あっ!やっぱ順子か!携帯に連絡くれか」

とりあえず昭夫は順子の指示通り、順子のiPhoneに電話をかけることにした。

「おう!住所わかったのか?」順子の携帯電話に出たのは久美子だった。

「あっ!そうか…」昭夫は順子のiPhoneを久美子が持っていた事を忘れていた。

「なんだい?『あっ!そうか…』って?住所わかったのかい?」

「いやそれが彩のLINE既読になんないんだよね…」

「使えない嫁だね」

「でも順子とは連絡取れそうだよ。さっき公衆電話から電話があった」

「そうなのかい!そんでどうなった?」

「いや…それがまだちょっと…電話には出れなかったから…」

「なんだかよくわからないね…」

「次かかってきた時はかーちゃん(久美子)の携帯電話番号教えとくから!」

「よろしく頼むよ!てかなんで順子の携帯に電話してきてんだよ?」

「順子の伝言が携帯に連絡ほしいって事だったんだよね」

「順子の携帯はあたいが持ってんだろうがよ!何寝ぼけたことしてんだよ」

「はい….おっしゃる通りでございます。何の言い訳もできません」

「順子も順子だねぇ…」

「ですね…」

「あとね!順子から電話あったら家で待ってるように伝えてよ!」

「なんで?」

「あたい16時から開く店でシロコロ食べてくるから」横で話を聞いていた慎也と昌也が目を合わせた。

「へっ?シロコロ?」

「今日、本厚木にきた目的の一つはシロコロだからね!」

「そうなの?」

「そうなの」

「順子どうすんの?」

「シロコロ食ったらすぐ行くから!」

「はぁ…」

「だから住所わかったらあたいの携帯電話にメールで送っとけよ!」

「わかった。気を付けていってらっしゃい」

「はいよ」と言って久美子は電話を切った。

「あっ!バッテリーなくなりそうだね!慎也!携帯電話充電させてよ!」

「えっ?」

「えっ?じゃねえよ!もうバッテリーがなくなりそうなんだよ!コンセントどこ?」

「バッテリーが無くなるわけねぇだろ!バッテリーの充電がないんだよ!」と慎也は久美子に聞こえないようにつぶやいた。

「ん?なんか言ったか?」

「いえいえ何も言ってませんよ!はいどうぞ!」

慎也は省エネタップ式のコンセントを久美子のすぐ近くまで伸ばし、久美子の携帯電話の充電コードをコンセントに差し込んだ。

「つかぬ事を伺いますが…」慎也が口を開いた。

「なんだい?」

「シロコロは誰と食べにいくのでしょうか?」

「そんなもん決まってんだろ!」

「えっと…それって…」

「あんたたちに決まってんだろさっき約束しただろうがよ」と言って久美子が慎也をみた。慎也は昌也を見た。昌也は久美子を見た。

「「へへへへへへへへへ」」と三人同時に笑いあった。それはオードリーの漫才で見たような光景だった。

「約束した覚えは一切ない…」慎也は口を尖らせながら心の中でつぶやいた。

順子、吉野家に入る

昭夫と連絡が取れた事で安心した順子はお昼ご飯を食べることにした。

「やっぱり牛丼にしよっと!」と独り言をつぶやき、テレフォンボックスから歩いて2分もかからない場所にある「吉野家」へ向かって歩きはじめた。

吉野家に入った順子は、椅子に座ると同時に「牛丼(並)」と「サラダ」を注文した。サラダのドレッシングはゴマドレッシングだった。

順子はこのゴマドレをサラダにかけず、牛丼にかけて食べるのが好きった。サラダはドレッシングなしで食べる娘だった。順子は無心で牛丼をかきこんだ。5分もしないうちに完食した。

「ふぅ…お腹いっぱい」

牛丼を食べ終えた順子は店員にたまっていたTポイントで支払いする事を告げた。

「あっ!やっぱり現金でお願いします」

順子のTポイントはモバイルTカードだった。なのでiPhoneを落としてしまった順子はTポイントで支払うことができなかった。

「くそっ!」店をでた順子は小さくつぶやいた。

「あたしってiPhoneがないと何もできないのね…」

順子はいまさらながら私生活においてiPhoneがかなりの影響を及ぼしている事に気付かされた。自身のスケジュール、友人知人の連絡先、交通系ICカード、時計、カメラ、銀行口座の管理、音楽、コミックetc…ちょっと考えただけでもこれだけの機能をiPhoneでまかなっていた。

「iPhoneが便利なのは間違いない…どっかになくした私が悪い…にしても多少の紙を使ったバックアップは必要ね」と紙の重要性を再認識した順子だった。

「あっーーーー!私、パパに携帯に電話くれって伝言しちゃってるじゃん!ひぇーーーー!」順子は先ほどの昭夫との会話を思い出した。順子はテレフォンボックスへ向かい歩き出した。本日3度目である。

「あたしってアホなのかな…..」

第十六話に続く・・・・

 

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