第二十九話 鮎祭り

その頃、慎也はウキウキした気分で熟女パブの前に立っていた。そしてある事に気づいた。

「あっ!千佳ちゃんに渡す誕生日プレゼント家に忘れた…」

慎也は千佳のために結構な金額のプレゼントを用意していた。

「仕方がねぇ…戻るか…」慎也は誕生日プレゼントを取りに自宅マンションへとぼとぼと歩きはじめた。

家にプレゼントを取りに戻った慎也だったがプレゼントが見当たらない。

「あれっ?プレゼントどこやったっけ?」慎也はプレゼントを買いに行った日の事を目をつぶり思い出していた。

「第一亭でサンマーメン食ったな…それからプレゼント買いに行って…あっ!車ん中か!」慎也は車で横浜にプレゼントを買いに行っていた。そして車にプレゼントを取りに行くために部屋を一歩出たところである事に気付く。

「あっ!車の鍵ねぇじゃん!」車の鍵は昌也に渡してしまっていたので車のドアを開ける事が出来なかった。

車は息子と共有していたのでスペアキーは子供に渡してしまっていた。

「疲れたし今日はもうやめとくか…」

部屋に戻りバッテリー切れのiPhoneを充電ケーブルに差し込み起動ボタンを押した。

LINEを見ると千佳からのメッセージが入っていた。内容は「何時頃くるの?」だった。

慎也は「ごめん!ちょっと体調がすぐれないので行けなくなりました。ごめん!m(_ _)m」と嘘をついた。するとすぐに千佳からの返信があった。

「りょうか〜い!また連絡ちょうだいね〜♡」

千佳は優しかった。メールに♡が入っているだけで慎也はますます千佳の事が好きになっていた。

「ふふふふふ」慎也はiPhoneを胸に抱きしめ布団に入った。

「今日はいろいろ盛りだくさんだったな…」

その頃昌也は

結局、指名のYUKIは体調不良でお休みだった。

発泡酒を飲みすぎてしまった昌也は1人席で寝てしまい時間だけがどんどんと過ぎてしまっていた。

起こされた時にはもう閉店時間間際だった。

「お客様、カラオケ入りました」

閉店間際に起こされてマイクを渡された昌也は何が何だかわからずにステージにあがらされた。

そして曲のイントロが流れ始めた。

曲は大沢誉志幸の「そして僕は途方に暮れる」だった。今日の昌也にぴったりの曲だった。昌也はわけのわからないまま熱唱した。

「そして〜僕は途方にくれる♬」

このあとオープンラストで店にいた昌也に恐ろしいほどの請求金額を見て、さらに途方に暮れる事になるとはこの時点では知るよしもなかった。

時は経ち4ヶ月後・・・・

「なんじゃこりゃ?」

慎也が自宅マンションの郵便受けを確認すると封筒が入っていた。

「げっ!」封筒の差出人は久美子だった。

慎也は部屋に戻り、封筒の上の方を手で引きちぎるようにあけた。封筒の中には一通の便箋と写真が2枚入っていた。

前略、道の上より

「なんじゃそりゃ!」慎也の頭の中で一世風靡セピアのヒット曲のイントロが流れ始めた。久美子は一世風靡セピアのファンだった。

この前はありがとう!シロコロにボウリング楽しかったよ!
秋間寿司美味かっただろ?
実はね、秋間寿司の大将、陽はあたいの息子なんだよ。

「なぬっ!」

まぁ向こうはあたいの事なんか覚えてないと思うけどいろいろあってね。
まぁあたいがいけないんだけどね。
まぁ小学校上がる前に別れ別れになってね。
まぁあたいが男を追っかけてったせいで会えなくてなったんだけど。

「まぁまぁうるせぇな…」

どういう意味で息子が秋間寿司って店の名前付けたかはしらないけどね。秋間はあたいの旧姓なんだよ。

まだ息子と一緒にいた頃、半年に一度だけ寿司屋に行っててね。そこで必ず陽が玉子を頼むんだよ。あたいも一緒に食べたこと思い出しちゃって…

「なるほどね…そんであのババア、マグロが好きだって言ってたくせに玉子注文してたのか!」

慎也は久美子が秋間寿司で玉子を食べていた事を思い出した。

それから40年以上会ってなかったからね。
死ぬ前に息子と話せてよかったよ。写真もとれたしね。
付き合ってもらって感謝してるよ。
ありがとうよ!

と書いてあった。

「なんだよ…そうだったのか…だから店入る前にサングラスかけたり、グラス持つ手が震えてたりして様子がおかしかったのか…」

慎也はその場で横になってあの時の事を思い出していた。

「死ぬ前に…?」慎也は右斜め上を見て目をつぶった。

「なんか病気なのか?そんな親子の再開に俺なんかがいてよかったのか…」

久美子が陽と会えなくなってしまった理由も理由だったが慎也は手紙を読み終えて急に切ない気持ちになってしまった。

「自分の息子に40年以上も会ってなかったなんてどんな感情なんだろ…」

写真は2枚入っていた。1枚は久美子が黄色いボウリング シャツを着てスコア300を指差しているパーフェクトを出した証拠写真だった。

「凄ぇな…」

もう一枚は秋間寿司の前で久美子と陽(大将)が二人で笑っている写真だった。

「あれ?こんとき俺もいたべよ!」慎也は画像処理で綺麗に削除されていた。

「フッ」慎也は鼻で笑った。

「来週帰省したついでにババアの店にでもよってみんか…」

とふと思ったとある夏の日、厚木市では鮎祭りが開催されていた。

慎也は写真をもう一度見て思い出し笑いをしていた。

「ビンポーン!」

するとその時、慎也の部屋の呼び鈴が鳴った。

「ん?誰だべ?」

慎也はドアスコープから外を覗き込んだ。

「ゲッ!」

そこには黄色いボウリング シャツを着た久美子が腕組みをして立っていた。慎也はドアを開けた。

「どうしたんすか?」

「ほら!お前のもあるよ!」

と言って手渡された紙袋を見ると久美子とお揃いのボウリング シャツが入っていた。

「早く着替えな」

「えっ?」

「えっじゃねえよ!ボウリング やりにいくぞ!」

「えっ?」

「早く着替えな!わかったかい!」

「はい…」

久美子は順子と鮎祭りの花火大会を見に行くために厚木にきていた。久美子は相変わらず強引だった。

慎也は思った。

「さっきの俺の純粋な気持ちを返してくれ…

The End

連載小説
スポンサーリンク
sfortythree.com

コメント