第十四話 いろんな場所で

部屋に戻った順子は作り置きしておいた麦茶を冷蔵庫から出し、グラスにに注ぎ「ゴクゴク」と喉を鳴らし一気に飲み干した。本日二杯目だった。順子は麦茶が好きだった。

「ふぅ…どっかにあればいいんだけど」

順子はiPhoneが家のどこかに隠れていてくれている事を祈った。

以前、朝起きて麦茶を冷蔵庫からだそうとしたら冷蔵庫にiPhoneが入ってた時はびっくりしたが、なぜ冷蔵庫に入っていたのかは未だに謎だった。

「あっ!」

順子はその時のことを思い出し、再び冷蔵庫を開けて中を確認したが冷蔵庫にiPhoneは入っていなかった。

「さすがにね…」

順子は部屋でじっとしてハーレムナイトがどこからか聞こえてくるのを待っていた。しかし、しばらく待ってもどこからも聞こえてくる事はなかった。彩(母)と公衆電話で話してから20分が過ぎていた。

「やっぱり家にはないのね…」

順子は部屋を出て、再び北口広場にある公衆電話に向かって歩きだした。

彩(順子の母)は順子に言われたように電話を切った10分後に順子のiPhoneに電話をかけていた。

Harlem Night 戻っておいでよ Babe」Harlem Nigh裸になればいい

「なんだ?」今は久美子が持っている順子のiPhoneに着信があった。画面には「母」と表示されていた。

「フンッ!」久美子は着信を無視する事にした。すると慎也が

「出なくていいんですか?」と訊いた。

「いいんだよ、アホ嫁だから」

「えっ!順子さんの住所わかるかもしれませんよ!」

「息子から連絡くるからいいでしょ」

「えーーーーーーっ!」

「なんか文句あんのかい?」

「だって!」

「だってもくそもないんだよ!あたい嫁が嫌いだって言ったよね?」

「はい…」慎也は昨日に続きつぶやいた。

「ダメだこりゃ」慎也はここ1日でチョーさんの気持ちが良く分かるようになっていた。

順子、駅に着く

順子が本厚木北口に着くとテレフォンボックス前に着くとなんと、3台ある公衆電話は全て先客で埋まっていた。

「嘘…みんな携帯電話持ってないの?」

ひと昔前だったら当たり前の光景だったかもしれないが、今の時代でなかかなか見れない光景だった。

「みんな携帯電話落としたのかな?」順子は自虐ネタをつぶやきほくそ笑んだ。順子は振り返り、本厚木駅北口にある「富士そば」の看板を見ている。

「おなか減ったな…」

以前一度だけ富士そばに入った時に何を食べたのかを思い出していた。

「蕎麦屋だけどかつ丼が美味しいのよね」

振り返ると3つあるテレフォンボッスの真ん中が空いていた。

「あっ終わってたんだ…」

順子はテレフォンボックスに入り、テレフォンカードを使い再び家に電話をした。

「あっママ!電話してくれた?」

「したわよ。鳴る事は鳴ってたわ、誰も出なかったけど」

「そうなんだ。やっぱ家にはないのね…じゃあパパの携帯電話番号教えて?」

「その前に携帯会社に連絡とかした方がいいんじゃないの?」

「そうなんだけど!携帯がないから出来ねーってやんでぇ!」順子の言葉はおかしかった。

「っていうかなんなの?みんなして?お義母さんに何の用なの?」

「えっ…あの…お盆に友達と東北旅行しようかと思って…」

久美子がこっちにくる事は彩(母)には内緒だったので順子は適当に誤魔化した。

「だったらお義母さんの家に電話すればいいじゃない?」

「だーかーらー」

「あっそうだったわね!あなたは携帯電話をどこかに落とした愚かな娘だったわね」

「もういいから!テレフォンカードの度数がなくなるから早くパパの電話番号教えてよ!」

彩はスマホを操作しながら夫、昭夫の電話番号を順子に伝えた。

「確認するね!逆から行くよ?」順子は電話番号を確認するときいつも末尾の方がら読み上げていた。これは父、昭夫から教わった方法でこの方が間違いあると気付きやすいと言われたのでいつも実践していた。

「OKよ!何で逆からなのかわからないけど…」

「はいはい!ありがとうございました!電話してみます!」順子はふてくされた様子で答えた。

「ちょっと順子さん!私、これから本当に出かけるからここに電話しても誰も出ないからね!」

「はいはい!」と言って順子は電話を切った。

「なんでさん付けなのよ!腹立つ!」順子は彩の馬鹿にしたような話し方にイライラしていた。

順子はさっそく昭夫に電話をしてみることにした。

「両親の携帯電話番号暗記してる人なんているのかな?」

順子、昭夫(父)に公衆電話から電話をする。

「ん?非通知か…やめとこ」

仕事中、バイブ設定にしていた着信に気付いた昭夫だったがで画面に表示された番号が「非通知」だったので電話にはでなかった。

以前、昭夫は非通知の着信に出てしまい、そのアナウンス通り進めていくとお金を振り込むように誘導されたことがあったので、非通知の着信には出ないようにしていた。

また後で知人にきいたところ、非通知からの着信に出てしまうと個人情報が知らぬ間に盗まれていたりする可能性があることを知ってからはなおさらだった。

「出ないなぁ」

順子は呼び出し音を10回鳴らしたところで電話を切った。すかさず2回目の電話をかける。何度もかけてれば「いつか出るだろう作戦」だった。

昭夫は再び着信中のスマホを手に取り画面を見た。表示はまたもや「非通知」だった。

「う~ん…やめとこ」

昭夫は着信がおさまるまで見届け、スマホを胸ポケットにしまった。

順子は2回目も10回鳴らしたところで電話を切った。

「出ませんね…」

順子は間髪入れずに3回目の電話をかけた。

「また着た…」

昭夫はスマホを胸ポケットから取り出し画面を見る。表示はまたもや「非通知」だった。

「チッ!」昭夫は着信を拒否し作業しているパソコンの横に置いた。

「3連続…誰だべ?」

昭夫は肘を机につき、マンダムのポーズをしながらしばらく固まっていた。

「あっ!拒否られた!って事は電話が着た事はわかってるみたいね」順子は4回目の電話をかけた。

「さすがに4回もかけたら電話番号覚えたわ」

机の上に置いたスマホがブルブルと振動し音を立てていた。

「また着たよ…もはや怖い…」

昭夫は4回目の「非通知」も拒否した。横で作業していた同僚の智樹が「いいんですか?電話でなくて?」と言ってきた。

「非通知なんだよね、だから出てないんだけど、4回連続でかかってきてんのよ」

「なんか緊急なんじゃないっすか?あやしい勧誘とかだったら1回で終わりだと思いますよ?」

「そうだな…あっ…順子かも」

「昭夫さんいつも留守電設定にしてないみないですけど、うちの会社のスマホ、留守電サービスも契約してますよ」

昭夫のスマホは会社から支給されたものだった。昭夫は留守電が好きではなかった。若い頃、留守電サービスを使っていた事もあったが、留守電に伝言が入っていると面倒でも折り返し電話しなければいけないので今は設定していなかった。

留守電を使用しなくなった決定的な理由は留守電に入っていた先輩から一言だった。その留守電は昭夫が寝ている真夜中に入っていたもので、起きてから留守電を確認すると入っていた伝言が「クソして寝ろ!」だった。真夜中に酔っ払った先輩からの伝言だった。

この為に留守電を契約していたかと思うとアホらしくなって留守電を即解約した経緯があった。

電話に出れなくても「本当に大事な用があるんだったらメッセージがくんだろ!」というのが昭夫の考えだった。しかし今回はしぶしぶ留守電を設定する事にした。

「ちょっとケツ出しいってくんわ」

昭夫は留守電を設定したスマホを机の上に置き、トイレへ向かって歩き出した。

「はぁまただめか…」

順子は4回目の電話にも出ない昭夫にイライラしたいた。

順子は昭夫に5回目の電話をかけてみる事にした。

すると5回目は留守番電話サービスにつながった。

「あっ!留守電!」

順子は思わず右手で小さくガッツポーズをした。

「パパ?順子だけど!留守電聞いたら折り返し携帯に電話頂戴!」と伝言を残して電話を切った。

「やったね!」と言って順子はテレフォンボックスを出て富士そばに向かって歩き出した。

「とりあえずご飯食べよう」

順子は女子一人でも立ち食いそば屋だろうがラーメン屋だそうが牛丼屋だろうが普通に入れる度胸の持ち主だった。

「好きな物食べるのに一人でお店に入れないとかないわよね」

第十五話へと続く・・・・


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