第二十話 次の店へ

「おい慎也!」

「はいなんでございましょう」

「次の店は決まってるのかい?」

「いや…別に決まってませんけど…」

「せっかく厚木に来たんだから厚木と言ったらこれ!ってもんよろしく!次はあたいが払うからね」

「はい…とりあえず駅の方向かいますか?」

「あいよ」チームブルースリーはほろ酔いで本厚木駅へと向かって歩き出した。

慎也は考える。厚木と言ったらシロコロ以外なんだろう。

「まぁシロコロだって有名になったのは最近だもんな…」慎也は歩きながら厚木といったらこれってものを考えていた。

「やっぱとん漬かな…でもとん漬け出す店ってどっかあったかな…」

とん漬けは産地直送の上質な豚肉を各店自慢の特製のみそに漬け込んだもので、厚木の肉屋さんなら大抵取り扱っている

「でもお土産や贈答品だしな…どっか店で食べれるとこあったかな?しかもまた肉になっちゃうしな…」

「あっ!」久美子が立ち止まり突然大声で叫んだ。

「ブリッ!」慎也はその声にびっくりしてオナラをしてしまった。

「ちょっとなんですか?びっくりさせないでくださいよ!」

「あたいの方がびっくりだよ!何いきなりオナラしてんのさ!」

「久美子さんの声にビックリしちゃって…」

「なんでビックリしたらオナラがでんだよ!」

「生理現象ですから…てかどうしたんですか?」

「ボウリング場あるんだね」久美子がビルの上の方にあるボウリングのピンのオブジェを見上げて言った。

「はぁ…そりゃあ厚木にだってボウリング場くらいありますけど」

「ちょっとやらないかい?」

「えっ?今ですか?」

「今でしょ!」

と久美子は言ったが有名な塾の先生がやったゼスチャーはしていなかった。

「あたい、毎週末にボウリングやってたんだよ。でも通ってたボウリング場が閉店しちゃってさ。久しぶりにやりたいんだけどどうよ?」と言って慎也を見る久美子の目は少女マンガのようにキラキラしていた。

「なくなったのって地元のボウリング場ですか?」

「そうだよ『古川トップボウル』何年か前になくなっちゃった」

「そこかどうかわかんないっすけど俺も古川でボウリングやったことありますよ。ちなみに生まれて初めてボウリングやったの古川です」

「そうなのかい?」

「帰省中に親戚が連れて行ってくれたんすけど、ほぼ全球ガーターでしたね。そもそも指の入れ方間違ってたんすよ。親指と人差し指と中指の3本で投げてました。小学校低学年の時っすけどね」

と言って3本の指でボールを投げるしぐさをしてみせた。

「ほんとうにやります?」

「行こうよ!」

「いいっすね!やりましょう?」

慎也は若い頃、土曜の夜になるとドライブも兼ねて「城山レイクボウル」まで毎週通っていたほどボウリングが好きだった。当時は酒も飲まなかったので、週末にやる事と言えばボウリングかドライブだった。カラオケボックスも無い時代だった。慎也は体を動かすことが好きなので運動に誘われると基本断ることをしなかった。

慎也と久美子は本厚木北口広場前のボウリング場があるビルのエレベーターに乗り込んだ。

ボウリング場はビルの7Fにあり、BAR、ビリヤード、ダーツも併設していてそれらをプレイしながらお酒も楽しめる娯楽スポットだった。大きなガラスから本厚木駅北口広場が一望できる素敵なロケーションも魅力のボウリング場だった。

エレベーターを7Fで降りるとそこはもうボウリング場。ボールがピンを倒す音が響いていた。待ち時間はなく、たまたま1レーンだけ空いていた。

「おぉ!1レーンだけ空いてますね」

「なかなか人気じゃないか」

「ですね」

慎也は受付用紙に必要事項を記入しはじめた。

「何か賭けて勝負するかい?」と久美子が言った。

「おぉ!なんでもいいっすよ」慎也は自信満々だ。

「じゃああたいが勝ったら今晩付き合ってもらおうかね」と言って久美子は左の眉毛を上下に動かした。

慎也は久美子の目をみてしばらく動かなかった。

「まぁ俺でよければ」

久美子が冗談で言ったことくらいわかったので慎也は適当に返事をした。

慎也は思った。「だいたいいい歳のばあさんと勝負して俺が負けるわけねぇだろう」

「俺が勝ったらどうします?」

「そうだね。あたいが一晩付き合ってあげるよ」と久美子が言った。

久美子のひたいを叩き「俺になんの得もねぇだろ!」と突っ込もうとしたがそんなことしようもんならまた「蹴り」が飛んできそうだったのでやめておいた。

「あのう…とっても嬉しいんですどそれはちょっと…次の飲み代、奢ってください」

「遠慮しなくたっていいんだよ」

「いや遠慮というか…近くに80年代の洋楽が流れてる素敵がBARがあるんでそこで1杯奢ってくださいよ」

「そうかい…それじゃ慎也が勝ったらそこであたいが奢ってあげるよ」

「言いましたね!忘れないでくださいよ!」

「あたいが勝ったら一晩付き合えよ!約束だぞ!」

「フンッ」慎也は久美子から目をそらし鼻で笑った。 

「どっちが先に投げるかジャンケンしましょう」

「おっけー」

「最初はグー、ジャンケンポイ!」

慎也はパー、久美子はチョキだった。久美子のチョキは親指と人差し指ではさみをつくるタイプのチョキだった。

「なんじゃそのチョキは…」

慎也の宮城にいる両親もチョキを出すときはこのスタイルだった。

「じゃあ、あたいは後攻で行くよ」

「了解です。ほんじゃ俺から先に行きますね」

「名前は久美子でいいですか?」

「いいよ」

受付用紙に本当は「モンチッチ」書きたいところだったが画面に表示された瞬間、殴られそうな気がしたのでやめておいた。そんな事を想像した慎也は思わず「クスッ」と笑ってしまった。

「何笑ってんだい?気持ち悪い!」

「いやいやなんでもないです」

慎也は受付用紙に必要事項を記入し、受付へ持っていった。

「あつ!」慎也は久美子の方を振り返り「2ゲーム勝負でいいっすよね?」と尋ねた。

「おっけい!」と言って久美子は両手で頭の上でオッケーサインを作ってみせた。

慎也と久美子はレンタルのボウリングシューズを履き、一番手前の第1レーンの椅子に腰を落とした。

「どのくらいぶりなんですか?」

「トップボウルがなくなってからは行ってなかったからもう何年もやってないわよ」

「そうなんですね?」

「久しぶりでワクワクするね」

と言って久美子は立ち上がりハウスボールを物色しはじめた。慎也も続いて立ち上がりボールを選びに動いた。選んだボールは慎也が11ポンド、久美子は12ポンドのボールをチョイスした。

「よっしゃー!俺から行きますよ!」

第二十一話へと続く・・・・

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