慎也と昌也は久美子と別れ、駅へ向かって歩こうとした時「ちょっとあんた達!」と久美子が口をひらいた。
「初めての土地に来た、か弱き女性をここにほったらかしにする気かい?」
慎也は振り返り右の眉毛を吊り上げ久美子を凝視した。
「どこがか弱いんだよ…」と言おうと思ったがここもぐっとこらえた。
「順子と連絡が取れるまでちょっと付き合いなよ」と言って久美子は慎也にウインクしてみせた。
「付き合う?付き合うってどういう事ですか?」と慎也が言うと久美子は「あんたらが順子の携帯電話もってるからあたいは順子に会えてないんだろうがよ」
それを聞いた慎也は「こんのババア!元はと言えばあんたの孫が携帯電話をベンチに置き忘れるからいけねぇんだろ!」と言いかけたがもちろんここもぐっとこらえた。
「だいたいあたいがこれ持ってたってどうやって順子と連絡とればいいんだい?」久美子の言っている事は正論だった。
「面倒くさいな…」慎也は何か理由をつけてやんわり断ろうと腕組みして考え始めた。
すると昌也が「そうですね。俺が順子さんの携帯電話拾ったのが原因で会えてないんですもんね」と言った。慎也はこの言葉を聞いて驚いた。
「おいおい!だいたいお前は昨夜、iPhone拾った事さえ覚えていなかっだろ!」と言おうとしたが久美子の目が気になったので声には出さなかった。
慎也は昌也の腕をつかみ「ちょっとすみません」と言って久美子に背を向け、こそこそと話はじめた。
「お前どうしたんだよ、もうほっとけよ」
「何言ってんですか?久美子さんほっとけないっすよ!」
「お前ほら!パチンコやりたいだろ!パチンコ!」
「何言ってんですか?パチンコなんていつでもできるじゃないですか!久美子さんが順子さんに会うまで付き合ってあげましょうよ!」
いつもは人の事など気にもしない性格の昌也がこんな事を言うのはおかしい。昌也はニヤニヤとほくそ笑んでいた。
「あっ!さてはこいつ順子さん狙いだな!」
只今彼女募集中の昌也くん、これからくるであろう順子に会ってなにかを期待しているのではないかと勘ぐった。
「お前、さては順子さん狙いだな?」
「へへぇ…そんな事あるわけないじゃないですかぁ!」昌也はニヤニヤして答えた。
「わかった!だったらお前が付きやってやれ!俺はマックに行く!」
「慎也さん、まだマック諦めてないんですか?」
二人の話を遠目で聞いていた久美子がすり足で慎也に近ずき、右トゥキックで慎也のケツの割れ目に軽い一撃をくらわせた。
「イヤン♡」慎也は思わず変な声を出してしまった。
「おいブルースリー!何ごちゃごちゃ言ってんだい?」
昌也は「慎也さんご指名ですよ」と言ってニヤっと笑った。昌也は慎也が人にとっちめられているところを見たことがなかったのでこんな光景が見れて嬉しかった。
「てか順子さんの家に電話にかけてみたらどうですか?」と伸也が久美子に提案した。
「あたい、順子の携帯電話の番号しか知らないんだよ」
「そうっすか…」
「だったら順子さんの親に聞いてみたらどうですかね?」
「あっ!そうだね。その手があったか!」
「どう考えてもその手しかねぇだろ!」と慎也は思ったがもちろん声には出さなかった。
久美子は折りたたみ式の携帯電話を開き、順子の父親で久美子の息子である昭夫の携帯電話に電話をかけてみる事にした。
「だめだ、出ないね…」久美子の息子、昭夫は電話に出なかった。
「まじっすか…」
「おいブルース・リー!厚木はシロコロが有名なんだろ?」
「えっ?突然何ですか?」
「シロコロ美味いんだろ?」
「美味いかどうかは好みだと思いますよ」
すると昌也が「慎也さんはホルモン好きで僕もよく連れて行ってもらってますよ」」と言って慎也の肩に右の手をおいた。
「ほんじゃ行こうか!」
「えっ!」
「えっじゃねえよ!」
「今からですか?」
「なんか問題あんのかい?」
「順子さんどうするんですか?」
「そのうち息子から連絡あんだろ!」
「シロコロ案内してよ!」
「えっ!」
「えっ!じゃねえよ!」
慎也は肩におかれた昌也の手を払いのけ「案内したい気持ちはありますが今の時間だと俺が行っているお店はまだ開いてませんよ、16時からです。」と言った。
「そうなのかい!それじゃあ店が開くまでどっかで休憩できないかね?」
「えっ!」
「えっ!じゃねえよ!」
「一緒にですか?」
「当たり前だろ!」
「・・・・」慎也は言葉が出なかった。
「どっかないかい?」
すると昌也が「いいところありますよ!ここから歩いて5分くらいですが無料でゆっくりできるとこあります」と言ってまた慎也の右肩に手を乗せた。
「そんなとこあんのかい?」
「えぇありますよ!ね?慎也さん!」
慎也は悪い予感がした。間髪入れず昌也が「慎也さん家で休憩しましょう!」と言った。
「ガビーン!」慎也は思わず白目をむいて「ガビーン!」と言ってしまった。
「何言ってんだおい!ダメに決まってんだろ!」
「え~!久美子さんが困ってるのにダメなんですか?」
「だってお前、5分前に出会ったばっかだぞ!久美子さんだって嫌ですよね?」
「あたいはかまわないよ!」
「え~!マジで?」
「宮城からの新幹線は座れたからいいけど東京からはずっと立ってきたからね」
慎也は5分前に会ったばかりの久美子を自分の部屋に招き入れたくなかった。
慎也はトイレに行って用を済ませた後、手も洗わないくせに他人を自分の部屋に入れるのは嫌いだった。
「あっ!てか丁度お昼なんでなんか食べに行きませんか?」と慎也は久美子に提案した。
「あたいは一日一食しか食わないから別にいいよ」久美子の返事はそっけなかった。
「おい!昌也腹減っただろ?」同じく昌也にも提案してみた。
「さっき箱そばで天玉食べたんで大丈夫です」昌也からの返事もそっけなかった。
「ほらほら慎也君!ここにずっと突っ立ってもしょうがないから…」久美子はなぜか慎也を君づけで呼んだ。
「でも見ず知らずの人はちょっと…」と慎也が言うと
「おい慎也!」
久美子は慎也を割と大きめの声で慎也を呼んだ。
「はい!」慎也はちょっとビクッっとして答えた。
「あたいの名前は?」
「久美子さんです」
「知ってるじゃないか!見ず知らずじゃないだろう!行くぞ!」慎也は思った。なんて強引なんだ!こんな人と結婚した見た事もない旦那さんを不憫に思った。
昌也は笑いが止まらなかった。慎也が困っているが面白くてたまらなかった。
「昌也君案内して!」久美子は慎也ではなく昌也に案内を頼んだ。
久美子と昌也は慎也を置いてけぼりにして歩き始めた。
すると慎也が「あっ!でも久美子さん!俺はいいんですけど奥さんがなんて言うか聞いてみないと」と言うと間髪入れず「慎也さん離婚してから一人暮らしじゃないですか!」と昌也が即答した。
「こいつ…」久美子を家に入れない為に離婚した妻を使おうと思いつきで言ってみたがだめだった。慎也は昌也を睨みつけた。それでも昌也はニヤニヤしている。
「なんだい?慎也君?あたいに嘘ついたのかい?」
「いやっ…なんちゅうか本中華…」慎也の声は尻すぼみで聞こえなかった。
「慎也はバツイチなのかい?」
「そうですね…」
「あたいもだよ」と言った久美子を後ろから見て慎也は2回大きく頷いた。「やっぱね、そりゃ旦那も逃げ出すわな」と心の中でつぶやいた。
「あたいはバツニだけどだね」伸也は再び大きく2回頷いた。
「あっ!俺の部屋汚くて足の踏み場もないですよ?それでもいいんですか?」
「いやいや慎也さんけっこう綺麗好きじゃないですか!」昌也はそう言ってiPhoneを操作し、慎也の部屋の写真を久美子に見せた。
「なんでお前俺の部屋の写真なんか持ってんだよ!」
「この前お邪魔した時に撮らせてもらいました」
「はぁ~?」
「自分が一人暮らしする時の参考として勝手に撮りました。慎也さんの部屋センスいいんですよ」
慎也の部屋はネットで見つけたセンスのいい部屋を参考にし、ほとんどそれを再現した家具やテーブルで構成されていた。
「きれいじゃんかよ!またあたいに嘘ついたのか?」
「いやっ…なんちゅうか本中華…」慎也の声は尻すぼみで聞こえなかった。
「本当に行くんだ…」慎也はがっくりと肩を落とし、地面を見ながら歩いていた。
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