第二十一話 勝負開始!

慎也は備え付けの布でボールを丁寧に磨きながらピンの方を見ていた。

すると久美子が「11ポンド?男のくせ随分軽いボール投げるんだねぇ?」続け様に「情けない!」と言い放った。

慎也は心の中でつぶやいた。

「そんな事、言ってられんのも今のうちだぜベイベー」

ボールを持ちドットを見て立ち位置を確認しボールをセットして静止、一つ小さく息を吐いた。

ゆっくりと歩き出し、豪快なテイクバックからリリースの瞬間、手首を左にひねり、ボールに強烈な横回転をかけた。このリリースを見ていた久美子は目を細め、ボールの行方を凝視している。

強烈な横回転がかかったボールはストレートで転がり、ヘッドピンのやや右側に当たり、派手なピンアクションとともに10本のピンを蹴散らした。

「おっしゃあ!」

慎也は久美子の方に振り返り、軽くうなずき、右手でピストルをつくり久美子を指さした。そしてハイタッチを要求した。久美子は笑いながら右手を上げハイタッチに応えてた。

「やるじゃないか!」

「まぁまぁ…こんくらいは普通ですよ!」

慎也は「どうだ!みたか!」ってな感じで椅子の前で「クルッ」と一回転し、どかっと座り足を組んだ。

「じゃあ、あたいも行ってくるかね」

「ふう」久美子もひとつ軽く息を吐き、アドレスに入った。ゆっくりと助走をとり、テイクバックからリリースした瞬間慎也は思わず声をあげた。

「おい!」

久美子の投法は「ローダウン投法」だった。ボールは綺麗な弧を描き、ヘッドピンど真ん中にヒットした。久美子の一投目はヘッドピンど真ん中に行ってしまい、9本を倒したものの10ピンが1本残ってしまった。

ローダウン投法とはボールをリリースする直前まで、手首と肘を内側に曲げてボールを抱え込み、ボールが体の真横に来たタイミングで、肘を伸ばし、手首を後ろ方向に向けボールをリリース。リリース時はボールを落とすような感じでリリースと同時に中指と薬指でボールを前に押し出すようにし、リリースの瞬間、手首のスナップを利かせてボールに回転を与える投法で手首に大きな負担がかかり、手首の筋力をがないと出来ない投法で、年配の久美子がやるような投法ではなかった。

「ちょっと早いのか・・・・」

「なにが早いんですか?」

「レーンだよ…」

久美子はレーンの状況を確認しながら投げていた。

「げっ!」

慎也は久美子がレーンの速さを気にして投げていることに驚いた。

「てか!そのお歳でなんちゅう投げ方してんすか!しかもハウスボールで…」

「ふんっ!Age is just a number 年齢は単なる数字だよ!ほんじゃスペアとってくるよ」

「えっ?それって…」

「Age is just a number」偶然にも慎也のLINEプロフィールと一緒だった。

久美子は残った10ピンを難なく倒し、スペアを獲得した。

「まぁ最初はこんなもんかね、ほれ!」

久美子も慎也にハイタッチを要求した。

慎也はこれに応じ2投目の準備を始めた。

「慎也の投げ方だとレーンコンディションあんまり関係なさそうだね」

「そうなんですよ、あんまいろいろ考えるの得意じゃないんでこの投げ方にしたんです」

「なるほどね。だから軽いボール使ってんのか。あたいが国体に出た時は慎也みたいな投げ方するやつはいなかったよ、台湾ボールだろ?」

「俺はUFOボールって言ってますけどね」

「UFOボールか、上手いこと言うね」

「てか国体ってなんすか?」慎也が久美子の方を振り返って言った。

「若い頃の話だけどね」

「こ・く・た・い?国体と申しますと、かの有名な国民体育大会のことでしょうか?」

「ほかになにがあんだよ!アホな事聞くんじゃないよ」

「ボウリングで?」

「ボウリングで」

「誰が?」

「あたいが」

「出てたんだすか?」慎也は噛み噛みだった。

「昔ね」

「聞いてねーーーーー!」

慎也は目をつぶり、天を仰いで叫んだ。そして久美子との約束が頭をよぎる。

「あたいが勝ったら一晩つきあってもらうよ…」慎也は貞操の危険を感じていた。

「ちなみに最高スコラはいくつですか?」

スコアと聞いたつもりがスコラになっていた。久美子は気にせずに「300」と答えた。

「ですよね…」

「慎也は?」

「239」

久美子は「フッフッフッ」と口角を上げて喋るように笑った。

「やべぇ・・・・」

久美子が元国体選手と聞いてビビった慎也の2フレーム目の第一投はヘッドピンのど真ん中をヒットしてしまい7番と10番ピンを残してしまった。

「ぎゃー!」慎也は再び天を仰いで叫んだ。

このスプリットはピンの位置がヘビの目のように離れている事から「スネークアイ」とも呼ばれるスプリットで慎也がどう頑張ってもなかなか取れないスプリットだった。

「あらあら、残念!」久美子は慎也を見てニヤついている。

しかし慎也はこのスプリットをボウリングを本格的に始める前に、生涯1度だけとったことがあった。その時は10番ピンの内側をはじき、壁に当たって戻ってきたピンが7番ピンに当たるという単なる偶然だった。

「あの時と同じようにやってみんか…」

あの時のイメージは今でも鮮明に残っている。

当時付き合っていた年上の女性との初デートだった。場所は「平塚パールレーン」スネークアイでスペアがとれたのは単なる偶然だったが初デートだったこともあり、いいとこ見せられたのでいかもに「僕、狙ってました」と言わんばかり彼女に向かって派手なガッツポーズをしながら振り返ったが彼女はトイレに行っていていなかった…

ちょっとだけ悲しい思い出だった。

「あれ?そういや平塚パールレーンってもうないのかな…」

「129沿いにもパチンコ屋と一緒のボウリング場もあったな…なんて名前だっけ?」

「相模ボウル?ボウル相模?」

「ボウリングの後、あの娘とどうしたっけ?どっか行ったんだっけか?」

「あの娘は今どうしてんのかな?結婚してんのかな?ショートカットが素敵な娘だったな…」

慎也はアドレスに入りボールを持ったまま、昔の事をいろいろと想い出していた。アドレスに入ったまましばらく止まっている慎也に向かって久美子が言った。

「おい!どうした!」

「あっ!」

その声を聞いた慎也はあわてて助走に入り10ピンの内側に思い切りヒットさせるようにストレートボールを投げ込んだ。

「あらっ?」それは投げた瞬間にわかるレーンど真ん中への投球だった。

「はいはい」慎也は頭をかきながら戻ってきて椅子に座った。慎也は集中力に欠けていた。小学生低学年の時「授業中よく立ち歩くことがあるので注意してください」と通信簿にも書かれていた。

「なんだい?あたいとのこの後のことでも考えてたのかい?」

慎也は思った。「これはやばい、ちゃんとやんなきゃ…」

第二十二話へと続く・・・・

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