第七話  朝、昌也の部屋で

Harlem Night 戻っておいでよ Babe Harlem Nigh裸になればいい

突然、昌也の部屋で大黒摩季のハーレムナイトが流れ出した。

「うるせぇな…誰だよ」

ぐっすりと寝ていた昌也はハーレムナイトで起こされた。まだまだ寝ていたい昌也はハーレムナイトが聞こえなくなるように頭から布団をかぶった。

しばらくするとハーレムナイトは鳴りやんだ。布団から顔を出し、壁掛け時計で時間を確認すると10時40分だった。

「眠いんだから寝かせてくれ!」昌也はまた布団を頭からかぶり静かに眠りにつこうとしたその時、再びハーレムナイトが鳴り出した。

Harlem Night 戻っておいでよ Baby Harlem Nigh裸になればいい

「おい!」

昌也は頭からかぶっていた布団を手で払いのけ立ち上がった。

「どこよ?」

昌也は音の出所を探している。コンポを見たが電源は消えていた。

「だいたい俺、大黒摩季持ってねぇし」

昌也は音のする方へ近づいた。

「んっ?」

音の出所は昨夜フィリピンパブへ向かう途中に拾ったiPhoneからだった。iPhoneは昌也のiPhoneと仲良く机の上に並べてあった。

昌也は自分のではない方のiPhoneを手に取り「なんだこれ!誰のiPhoneよ」とわりと大き目の声でつぶやいた。

昌也は昨夜、ベンチに置き忘れてあったiPhoneを自分のポケットに入れたことを覚えていなかった。

iPhoneを手に取り、画面に目をやるとそこには「久美子ババ」と表示されていた。

「久美子ババって誰よ?」誰のかわからないiPhoneなので昌也が久美子ババを知ってるはずもなかった。

昌也はハーレムナイトが鳴りやむまでじっとiPhoneを見つめていた。

ハーレムナイトが鳴りやんだのを確認し、再び壁掛け時計で時刻を確認した。

「あれっ!もうこんな時間!」

時刻は10時45分だった。昌也は昨夜、慎也と今日10時に「パチンコ太平洋」で合う約束をしていた。

「やべぇ!出遅れた!」昌也は出かける準備をするために誰のかわからないiPhoneをを机の上に置いた。

そして昨日、寝る前に脱いだ靴下の匂いを嗅ぎ「いける!」と言ってその靴下を履いた。

拾ったiPhoneを見ながら「慎也さんのiPhoneか?なんかで預かってそのままとか?」とつぶやいた。

「慎也さんに電話かけてみればこれが慎也さんのかどうかわかるか…」

昌也はこのiPhoneが慎也の物なのかを確かめる為、自分のiPhoneから慎也に電話をかけてみる事にした。

慎也に電話をかけようとiPhoneを操作しようとしたその時、三度目のハーレムナイトが鳴り出した。

Harlem Night 戻っておいでよ Baby Harlem Nigh裸になればいい」

昌也は誰のかわからないiPhoneの画面を覗き込む。

「う~ん…久美子ババ…」昌也は小さくつぶやいた。画面をじっと見つめ、電話に出るか出ないかを考えてみた。

「出れば誰のiPhoneかわかるかも知れないな」

「でも電話にでることでいろいろと面倒くさいかも…」

「あんただれ?とか…」

「なんでこれ持ってんの?とか」

昌也はこのiPhoneを持っている事であとあと、いろいろと面倒が起きる可能性を考えていた。

なので昌也は電話に出ない事にした。そんな事を考えているうちにハーレムナイトは鳴りやんだ。

「てかこれ、昨日、酔ってどっかで盗んでたりとかねぇよな…」昌也は酔って何かしでかしてないかを心配した。

「とりあえず慎也さんのかも知れないし何か知ってるかもしれないから電話してみよう…」

昌也は慎也に電話をかけてみる事にした。電話をかけてみると呼び出し音は鳴るもののここにあるiPhoneは微動だにしなかった。

「慎也さんのじゃないのか…」10回呼び出し音を鳴らしてみたが慎也は出なかった。

「パチンコやってんとうるさいから気づかないかな…」

昌也は2台のiPhoneをチノパンの後ろポケットに入れた。

何年後かになくなってしまう事が確定している髪の毛が寝癖でひどかったので帽子をかぶり、慎也が待っているパチンコ太平洋へと向かうために家を出た。

その頃、慎也は・・・

昌也を待つ事ができるような状態ではなかった。

パチンコ太平洋に開店前から並び、連荘機「ダービー物語」に座ったものの、一度も当たる事なく、財布に千円札一枚を残しパチンコ太平洋を出るところだった。

「俺は勝てねぇなぁ…隣に座ってれば今日は大勝ちだったんだけどなぁ…」

朝一から慎也が座っていた台の隣にはしばらく誰も座らなかった。慎也は移動しようかどうか迷っていたが、朝一から金をつぎ込んだ台を移動した時に誰かに出されるのが嫌だったので我慢して粘っていた。

すると隣の台に座ったおばちゃんが千円も使わないで大当たりを引き、そこから怒涛の大連荘を引き出していた。

「やっぱね…」

慎也は自他ともに認めるほど博才がなく、パチンコ、競馬、競輪と何をやっても勝てなかった。

あまりにも勝てないのでなぜ勝てないのか理由を考えてみた事がある。

そして慎也が導き出した答えは「俺はモテるからな…人生にはバランスが必要だし仕方がない!」だった。そんな慎也には離婚後、何年も彼女がいなかった。慎也はポジティブだった。

慎也は太平洋をあとにし、厚木一番街から昌也に電話をかけた。

「おう!オレオレ!」

慎也はオレオレ詐欺と言う言葉がない頃から「オレオレ」を使っていた。

「あっ!おはようございます!すみません!寝坊しました!今歩いて愛甲石田駅に向かってます」

「いいよ別に!気にすんな!ただ俺はもう負けちゃって金が無くなった。香林でラーメン食って帰るわ!」

「マジっすか!」

「マジマジ!もし勝ったら今夜奢ってよ!」

「わかりました!勝ったら連絡します!」

「よろしく哀愁!」

「あっ!慎也さん!ちょっと聞きたいことがあるんですけど?」

「ん?どうした?」

「なんか身に覚えのなiPhoneがうちにあったんすけどこれ誰のか知ってます?」

「はぁ?何?覚えてねぇの?」

「はぁ…」

「ぽっちゃりのiPhoneだよ!」

「えっ?」

「フィリピンパブ行く途中で拾ってたぞ!」

「えっ?」

「拾ってたっていうかベンチに置いてあったのポケットに入れてた」

「えっ?」

「なんか今日警察に届けてあげます。みたいな事言ってたような気がする」

「えっ?」

昌也は口からは「えっ?」と言う言葉しか出なかった。

「んじゃ俺、香林行ってくんから」

「えっ?」

と言ったところで電話は切れた。

「俺が拾ったのか…こりゃパチンコ行ってる場合じゃないな…」昌也は拾ったiPhoneを見つめつぶやいた。

昌也は試しに拾ったiPhoneをいじってみた。「あれ!これ中身見れちゃうじゃん!」iPhoneにロックはかかっていたなかった。

「いや~それはさすがにダメだよな…でも誰のか確かめるくらいなら…」

偶然にも拾ったiPhoneは昌也の一代前の機種だったので使い方はだいたいわかっていた。

Apple IDを確認するとそこには「山後順子」と表示されていた。

「え?まさか『さんごじゅんこ??』」

持ち主の名前は山後順子(さんごじゅんこ)だった。

「掛け算か!」昌也は歩きながらiPhoneに向けてつっこんだ。

iPhoneの持ち主の名前がわかった昌也は、その名前をみて高校生の頃に読んだ「柔道部物語」を思い出していた。物語の主人公の名前が「三五十五」だった。

「あっ!この電話番号に電話すれば山後順子が出るかも!」

そう思った昌也はさっそくこの番号に自分のiPhoneからかけてみる事にした。

「え~っと080‐1234‐754と」

Harlem Night 戻っておいでよ Baby Harlem Nigh裸になればいい

「あっ…」

昌也はかなりの天然だった。

「こりゃやっぱ警察に持ってくべきだな…」

昌也の家から一番近い交番は愛甲石田駅にあるが、本厚木で拾ったので本厚木北口にある交番に届ける事にした。

「実は昨夜拾ったんですけど丑三つ時だったんでいったん持って帰ってしまいました。って言えば大丈夫だべ」なぜこんな時に普段使わない、丑三つ時が出てくるのかが不思議であるが、昌也は警察官にそう言うつもりでいるようだ。だいたい昌也は丑三つ時が何時頃を示すのかを知らなかった。

 「ピコーン!」

昌也は家を出て愛甲石駅まで歩いていた途中に山後順子のiPhoneになんらかの反応があった事に気が付いた。

「ん?」

昌也は中身を見ることにした。画面にはメッセージアプリに1件のお知らせが届いていた。

「いんや~これ見ちゃまずいよな…」

と言いながらすぐにメッセージアプリをタップした。メッセージは「久美子ババ」からで「12時頃本厚木に着く 4649!」と書いてあった。

「4649?久美子ババ12時に本厚木にくんのか…」

だからと言って昌也にはどうしようもない事だった。

「俺には関係ない!」

「俺には関係ない!」

「俺には関係ない!」

昌也は3回このセリフを繰り返した。

「俺は拾ったiPhoneを警察に届けるだけ、それですべては終わり」

昌也はよく晴れ渡った空を見上げ目を細めた。

第八話へと続く・・・・

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