「慎也の事、順子に紹介すんから一緒に部屋まで行くべな!」久美子は慎也を順子に紹介するつもりだ。
「えっ!いやいや大丈夫ですよ!」
「何言ってんだい、こっちでお世話になったし紹介ぐらいさせろよ!」
「んまぁいいんすけど…俺が下に住んでる事は内緒にしといてもらっていいですか?なんか気まずいんで…」
「そういうもんかね?」
「なんかそんな感じしません?」
「そんなもんかね?」
「だって俺が下に住んでるなんて知ったら順子ちゃん住みづらくなっちゃいません?」
「よくわからんけどね」
「音とか色々気にしちゃうかと…」
「ふ〜ん」
「あと順子ちゃんが俺の事好きになっちゃったらどうすんですか?しかも上と下の関係ですよ?」
「ゴン!」(お察しくだささい)
「なにを言ってんのかねお前は!順子は20歳なんだぞ?慎也は52歳だろうが!」
「愛があれば歳の差なんて関係ありませんよ!」慎也は頭を両手で押さえながら反論した。
「言ったね!じゃあ、あたいが相手でもいいって事かい」
「いやっ!それはちょっと…歳の差が」
「あたいの方が順子より歳の差が近いだろうよ!」
「あっ…確かに…でもそれはちょっと…」
「なんだい?あたいじゃダメだっていうのかい?」
「好みの問題が….」と言いかけて慎也は足早に歩き始めた。
「おい!ちょっとまてこら!」慎也は無視して歩き続けた。
「ちっ!このヤローめ!」久美子は舌打ちをして慎也を追いかけた。
ほどなくすると慎也と久美子は慎也と順子が住んでいるマンションに到着した。
「とぅー!」慎也に追いついた久美子は慎也のお尻に膝蹴りを食らわせた。
「な・なんばすっとですか!」
「なんだそりゃ!どこの方言だい!いいから早く鍵開けな!」慎也は不満そうに久美子を見た。
「なんだい?文句あんのかい?」
「いいえ、なんの文句もございません…」と言って腰を45度曲げ、頭を下げた。
「俺ほんとに行く必要あります?」
「うっせぇな!いいから行くんだよ!早くオートロック解除して!」
「ピンポンすればいいじゃないですか!」
「いきなり部屋の前まて言った方がサプライズだろ!」
「ちっ!」慎也は小さく舌打ちしてみせた。
「おい!聞こえたぞ!今舌打ちしたな!」
「いやいや違いますよ!歯にものが挟まってたんで…シロコロかなぁ?」
慎也はエントランスでキーを差し込みオートロックを解除した。
エレベータに乗り込んだ慎也が言った。
「久美子さん、ジャージもう必要ないっすよね?」
「そうだね。順子んことで洗濯して返そうか?」
「いや!大丈夫です。このまま貰いますよ」
「あたいの匂い付きでいいのかい?」
「・・・・」慎也は無言だった。
「おい!」
「・・・・」慎也は無言を貫いた。
久美子はジャージを脱いで慎也に渡した。
「はいよ、ありがとさん」
「You’re welcome」
久美子が「あたいは先に順子んとこ行ってるからバッグ取ってきてよ」と言って⑦(7階)のボタンを押した。
「えっ?マジっすか?」
「マジっすよ」
慎也は⑥(6階)のボタンを押し先に降りるのになぜか久美子の背後につけた。
そして慎也は口パクで久美子の頭のに向かって「バーカバーカ」とふざけていた。
とても普通の52歳がやることではないが慎也はこういう事をするのが好きなアホな52歳だった。
「おい!エレベータのガラスに写ってるぞ!」
「ゲゲッ!」
ガラス越しに久美子と目があった慎也は後ずさりしてエレベータの壁に背中を押し付けた。
久美子は振り返りもせずガラス越しに「ニヤっ」と笑い、後ずさりしなざら慎也を壁際へと押しやり体をピッタリと寄せて動けないようにした。
エレベーターの中で行われているおっさんとおばさんのアホな行動は全て防犯カメラに記録されていた。
「怖ぇ…」
慎也は密室での恐怖におののいていた。エレベーターの壁に押しつけられたまま6階に着いた。慎也は「降りまーす!降ろしてください!」と言い久美子から無理矢理すり抜けるように出て行った。
「バックよろしく!先にいってるぞ!」と久美子が言うとエレベータードアが閉まった。
「危なかったな…なんだったんだ今のは…」
慎也は部屋の鍵を開けダッシュでトイレへとかけこんだ。急いでジーンズをおろし便器に座り込んだ。
「こっちも危なかったぜ…」
慎也は便意(小)を催していたが久美子がいた手前そこらでやる事ができなかった。実はとば口ギリギリの攻防だった。
「あぶねぇ52歳にしておもらしすんとこだったっぜ!」
慎也は母の言いつけを守ってトレイでは小でも座るようにしつけられていた。
「バッグ渡したら熟女だな…」慎也は千佳の事を考え、ニヤニヤと笑っていた。
7階に着いた久美子はエレベータを降り、705号室を呼び鈴を鳴らした。
「あっ!着た!」順子は小走りでドアに向かって言った。
ドアスコープで確認するとそこには両手でピースサインしている久美子の姿が見えた。順子はドアを開け久美子に抱きついた。
「いらっしゃーい!」
「久しぶりだね!元気だったかい!」
「元気元気、さぁ入って入って!」
「あれ?荷物ないの?」
「今から慎也が持ってくるよ」
「慎也?誰それ?」
「今日一日付き合ってくれた子だよ。っても52歳のおっさんだけどね」
「何?こっちに知り合いいたの?」
「今日知り合いになった」
「はぁ?」
「ホルモン食って、ボウリングして、寿司食べてきた。もうお腹一杯だね」
「はぁ?」
「これお土産!と落とした携帯」
「ありがとーう!でもなんで久美子ババが私のiPhoneを持ってたの?」
「ロングストーリーになるからまた明日話すよ」
「なにこれ!きゃっ!お寿司!」順子は寿司のフタを開けて仰天した。
「いくら!」箱の中は全てイクラで埋め尽くされていた。
「好きだったろ?」
「大好きだよ」
「あたい少し疲れたらからもう寝るよ」
「今日宮城から出てきて飲んで食べて遊んで…その歳でそんなに動くなんて尊敬するよ」
「Age is just a number 年齢は単なる数字だよ、布団あるのかい?」
「あるある!ちょっと用意するからお茶でも飲んで待っててよ」と言ってペットボトルのお茶を久美子に手渡した。
「ピンポーン」
「あっ誰かきた」
「慎也でしょ」
順子は念のため、ドアスコープを覗いてみた。しかし慎也はすでにそこにはいなかった。「あれっ?」順子がドアを開けてみると久美子のバックらしきものだけがおいてあった。
「ねぇこれ久美子ババのバック?」
「そうそう、あれっ?慎也は?」
「いないみたいよ」
「なんだよあいつ!」
「なにがどうなってその慎也さんて人がババのバック持ってきた訳?」
「あ~それか…それもめんどうだから明日話すよ」
「はぁ…」
久美子は持ってきた部屋着に着替え布団へと滑り込んだ。
「あ~楽しかったぁ~!おやすみ」と言ったあと、おおきなあくびをひとつかき、静かに眠りについた。
「いくら食べよ!」
順子は冷蔵庫から久美子と一緒に飲もうと思っていたノンアルコール赤ワインを取り出し、ジョッキに氷を入れ、ノンアルコール赤ワインも並々と注いだ。
久美子に音が聞こえないようにヘッドフォンをしてネットフリックスで「フラーハウス」を見ながらイクラを食べる事にした。
「イクラはいくらでも食べれれのだ!」
誰も聞いていないのにおやじギャクを一発かまし、イクラを一つ口の中に放り込んだ。
そしてすかさずノンアルコール 赤ワインをごくごくと流し込んだ。
「うまーい!」
順子はイクラ10個とノンアルコール 赤ワインジョッキ2杯を平らげ、ひとつ大きくあくびをした。
ちょうどフラーハウスのシーズン1、エピソード5を見終わったところで寝ることにした。
「あたしも寝るかな・・・・」
順子もこの日の為にAmazonで買った寝袋を広げ、寝る準備に入った。順子は寝袋で寝るのが初めてだった。
「ひゃ~楽しみ~!寝れるのかな?」
寝袋を広げた順子はモゴモゴと寝袋に入り込んだ。うつ伏せになり首を横にして目を閉じると5分としないうちに眠ってしまった。
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