慎也は熟女パブワンタイムを条件に「久美子ババ」と会う事にした。しかし初めて会うであろう「久美子ババ」の情報は今のところ何もなかった。
わかっているのは、名前は「久美子ババ」そしてたぶん「順子」のおばあちゃん、そしておそらくは本厚木駅近くのファミリーマートの前にいる。慎也が知っている情報はこの3点だけだった。
「ファミマって事は南口だな…」
慎也が今いるマクドナルドは厚木一番街(本厚木駅北口方面)にあり、そこから南口まで信号にもよるが遅くても5分とかからない場所だった。
「ファミマって南口に3つあんだよな」本厚木駅南口にはファミリーマートが3つあった。(2022年頃まで)
南口を出て左側にあるファミリーマートは二店舗あるのだが、狭い道路を挟んで向かい合って営業している。おそらくは日本一、いや世界一ファミリーマート同士の距離が近い店舗だと慎也は思っている。
もともとはファミリーマートとサンクスが道路を挟んで営業していたのだが、ブランド統合によりサンクスがファミリーマートになった為にこのような事になってしまったようだ。
なのでその気になれば1秒で移動できる距離にファミリーマート同士が営業していた。初めて見る人は「なんで?」となる光景である事間違いなしだった。
南口に着いた慎也は世界一ファミリーマート同士が近い距離で営業している方を覗いてみた。
「誰もいない…」
覗いてみた方には「久美子ババ」らしき人はいなかった。というかファミマの前には誰もいなかった。
「こっちか」
慎也は反対方向にあるファミリーマートに向かって歩き出した。
ファミリーマートに近づくと一人の年配女性が携帯電話を持って立っていた。背は低いががっちりとした体型で、モンチッチのような短髪だった。
「ぽっちゃりモンチッチがいるな…」慎也はぼそっとつぶやいた。
慎也が見たその年配女性はポッチャリという言葉がぴったりと当てはまるような女性だった。
「こいつが久美子ババアか…」慎也はなぜか久美子の事を「ババア」呼ばわりしていた。
「う~ん…どうしよ」ファミリーマート前には年配女性一人しかいなかったがとってもチキンは慎也君、その人が久美子かどうか聞くこともできず、目を合わせないようにして前を通り過ぎた。
そしてファミリーマートから少し離れ曲がり角を曲がったところで立ち止まり頭を掻きむしり
「なんて声かけたらいいんだろ…」と言って首を横に傾けた。
慎也は首をブルブルと振り気合を入れた。
「よしっ!」慎也は再びファミリーマートへ向かって歩きだした。
しかしまたもや声をかける事ができず、モンチッチごしにファミリーマートの中を外から覗くフリをして年配女性の前を通り過ぎた。
少し離れたところで立ち止まり、肩越しにファミリーマートの方を覗き込んだ。
「一人しかいねぇし、あいつが久美子ババアで間違いねぇんだべな…」
慎也は三度、ファミリーマートの方へ向かって歩き出した。
すると歩き出してすぐにその年配女性からの強い視線を感じた。
「やべぇ…ずっと見てる」
女性の視線にビビッた慎也は女性の顔を見ないようにしたてまたもや前を通り過ぎようとした。
とそのとき、年配女性が口を開いた。
「おい!ブルース・リー!」
「へっ?」
「あんた何さっきからあたいの前ウロウロしてんだい!」
「へっ?僕ですか?」
と言って慎也はあたりを見まわした。
「他に誰がいるんだよ!」
慎也は再びあたりをきょろきょろと見まわしたが人っ子一人いなかった。
「ブルース・リー?」
慎也は真っ黄色なコンバースのジャージ(上着)を着ていた。
今は無き惜しまれつつも閉店した「イトーヨーカドー本厚木店」にあった「ワンクウォーター」という店でバーゲン価格1,900円で買ったものだった。凄く気にいっていて20年以上も愛用していた。
「そうだよ!そんな目立つかっこうしてあたいの前、何行ったり来たりしてんだよ!」
「いや、あの…」慎也は返答に困っていた。
「怪しいね」久美子が斜に構え慎也を睨んだ。
「ひっ!」慎也は思わず目をそらした。
「あっ!あっ!あのですね。ちょっとお伺いしたいことがありまして…」慎也は覚悟を決めて聞いてみる事にした。
「なんだい?」
「ひょっとしてあなたは『久美子ババア』ですか?」
「ゴン!」鈍い音がした。
「痛い!」慎也は久美子にゲンコツで頭を叩かれた。
「なんでお前に『ババア』呼ばわりされなきゃいけないんだい!」
久美子は口より先に手がでる人だった。
「すみませんすみません!久美子さんでした!久美子さん!」
「はぁ?お前はなんであたいの名前知ってるんだい?怪しいね!」久美子は慎也に一歩近づいた。
また叩かれると思った慎也は後ずさりしながら「違うんです。僕はあやしいものじゃないんです。久美子さんは順子さんの知人の方ですよね?」
久美子は目を細めて言った。
「はぁ~?あんたあの娘のなんなのさ?」
それを聞いた慎也はニヤッと笑い「港のヨーコ横浜横須賀〜」と歌ってみせた。
「ゴン!」また鈍い音がした。
「痛い!」慎也は再び久美子にゲンコツで頭を叩かれた。
「馬鹿にしてんのか!ちょっと警察に電話すんからそこで待ってろ!」と言って久美子は自分の折り畳み式携帯電話を開いた。
「すみません!すみません!ちがうんだす。ちょっと話聞いてください」
「なんだ!違うんだすって!」
慎也は「警察に電話したいのは頭を2回も叩かれた俺の方だろ!」と言いたかったが、そんな事言おうもんならもう一発くらいそうだったのでぐっとこらえた。
久美子は携帯電話を閉じた。
「あ~?なんだい?聞いてやるから言ってみな?」
慎也は一呼吸おいてから
「実はですね…」
と言いかけたところで久美子が
「その前にあんたの名前は?」
「自分、慎也です。」
「慎也?どんな字よ?」
「慎むに也です。」
「慎也ね。そんで?」と久美子が言うと慎也は「昨日深夜、ベンチに置き去りになってた順子さんのiPhoneを俺の後輩が持ってるんです」と答えた。
「順子の携帯電話を?」
「iPhoneです」
「どっちだっていいだろ!」
「はい…」
「拾った?」
「そうなんです。拾ったときに警察に届けようかと思ったんすけど深夜だったんで一旦持ち帰って、今日、警察に届けようとしてたみたいです。後輩が…」
「はぁ~?意味がわからないね。それでなんであたいがここにいるのわかったんだよ?」
「後輩が順子さんのiPhoneの中身を見たら、久美子さんからのメッセージが着てたんで…本厚木にいるって送りましたよね?」
「中身見たのか?」
「それがロックされてないんで見れちゃったみたいです。これから後輩が持ってきます」
「ふ~ん…」
「ロックって分かります?」
「おい!あたいの事バカにしてんのか?」
「ももももも・もうすぐ後輩きますよ、電話してみます」慎也は身の危険を感じ、久美子から離れて昌也に電話をかけた。
その時昌也は
本厚木駅構内のトイレで大きい用をたすために便器に座って鼻歌を歌っていた。曲はプリンセスプリンセスのダイヤモンドだった。
「あっ!電話鳴ってんな…」
電話の着信音には気付いた昌也だが、iPhoneをチノパンのポケットにいれたまま、パンツと一緒にトイレの扉にあるフックにかけていたので電話を取る事ができなかった。
昌也は履いているものを全部脱がないと「大便」ができない人間だった。
「あれっ?出ませんね…」慎也は久美子をチラチラと見ながら言った。
電話を切った慎也は久美子に「そういえば順子さんはこないんですか?」と尋ねた。
「携帯に到着時間連絡する事になってたからね。」
「あっ!それじゃ今、久美子さんが本厚木にいる事知らないんですか?」
「だろうね」
「まじっすか?あっ!電話きました。たぶん後輩です」
と言って慎也はiPhoneの画面をスワイプした。
「すみません!今ちょっとケツ出してました。南口着きました!どっちですか?」
「庄屋の方」
「オッケーです!見えました!」
と言って昌也は手を振りながら小走りで慎也と久美子に近づいてきた。
「こんにちは!久美子ババですか?」
と言って昌也は久美子に手を差し出した。
「あっ!バカ」
慎也は昌也が久美子に頭をはたかれると思い目をそらした。
久美子は「よろしく!」と言ってその手を握った。
「えっ!」
と言って慎也は久美子を見て右手を上げ「叩かないのか?」というゼスチャーを繰り返した。だが久美子は慎也の方を見ようともしなかった。
久美子は昌也の手を握りながら「いい男だね!」と言ってほくそ笑んだ。
慎也は思った。
「ひいきだ!えこひいきだ!」
と久美子に向かって言おうとしたがまた叩かれそうだったので静かにしていた。
「あんたはなんて名前なんだい?」
「自分は昌也です。順子さんはきてないんですか?」
久美子はまだ昌也の手を握ったまま離そうとしない。
「着く時間を携帯電話に連絡して迎えに来てもらう予定だったからね。あんたがそれ持ってたら見れてないだろうね。」
すると慎也が
「このiPhoneが本当に順子さんのか確認したいんで久美子さんから順子さんに電話してもらってもいいですか?」
「ちっ!」
久美子は握っていた手を離し舌打ちをしてから慎也を見た。慎也は思った。「なんで俺には冷たいんだ…」
久美子は折り畳み式携帯電話を開き順子の携帯番号に電話をかけた。
「Harlem Night 戻っておいでよ Babe Harlem Nigh裸になればいい」ハーレムナイトが鳴り響く。
「間違いないっすね、これ順子さんのです」と言って昌也は久美子にiPfoneを手渡した。
久美子はiPhoneを手にし「なんで順子の着信音はハーレムナイトなんだい?」と言って慎也を見た。
「そんな事俺が知るわけねぇだろ!」という正論を久美子にぶつけようとしたが「誕生日が大黒摩季と一緒なんじゃないっすかね」とか適当な事を言ってみせた。
「そうなんだ」なぜか久美子は納得していた。
慎也は「納得すんのかい!」と言って久美子の額を叩こうとしたがそんな事をすると慎也の人生が終わってしまう可能性があるのでぐっとこらえた。
すると昌也が「すみません。拾ってすぐに警察に届ければよかったんですが深夜だったもんで…」と言って久美子を見て笑った。
久美子も昌也に「仕方ないね」と言って微笑み返した。
それを見ていた慎也は昌也の肩を軽く叩き、顎を駅方面へ振って「いくぞ!」と無言で合図した。
「じゃあこれで失礼します」と言って昌也は久美子に手を差し出した。久美子は再び昌也の手を握り「ニヤッ」と笑った。
慎也も照れながら手を差し出したが久美子は手を出さなかった。
「く・くそババァ!」慎也は心の中でつぶやいた。
慎也と昌也は久美子に別れを告げ、本厚木駅へ向かい歩き始めた。
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